2013年01月03日

改作落語【初芝神】(初天神・改)

古典落語の「初天神」の改作(パロディ)で「初芝神」というのを思いついてしまった。思いついてしまった以上、書くしかないだろう。

尚、この落語はフィクションで人物や団体は架空の存在です。



【マクラ】
一杯のお運び様で熱く御礼申し上げます。お正月の落語と言えば「初天神」がお馴染みですな。詳しいあらすじはこちらを。いい落語ですよね「初天神」。ただ、今の子供は凧をやらないし、泣き叫んで駄々をこねて団子を食べたいとは言わないだろうなぁ。コンビニに行けば120円で肉まんやシュークリームが買えて、マクドナルドに行けば100円でジューシーシャカシャカチキンやホットアップルパイが買える。そっちの方が食べたいんじゃないの。疑い出すときりがない。お父さんだってそう。「蜜の付いた団子は着物を汚す」からと言って全部ベロベロ舐めまわして蜜のない団子を子供に渡します。その描写が噺家さんの腕の見せ所なんですが、いい年した大人があんなに蜜を舐めるものか。そりゃ、檀蜜なら舐めまわしたいでしょうけど。

という訳で設定を現代風に変えてみました。船橋市在住の元プロ野球選手が、孫を連れて船橋東武の初売に行く母親に、自分も一緒に連れていって欲しいとせがむ所から噺は始まります。

【初芝神】
「いいかい。廊下は静かに歩くんだよ。あいつに見つかると面倒だからね。どれだけ買い物の時に苦労したか。あんなでかい図体で駄々を捏ねられたらたまったものじゃないよ」
「あー、今日は1月2日か。新聞休刊日なのに郵便受けを見に行くなんて我ながらマヌケだな。早く戻ろう。ガチャ。あれー、母ちゃん。それに息子達。どうしたんだ、こんな早い時間に」
「ちっ。見つかったか。いや、なんでもないよ。ちょっと初天神へ」
「初天神?昨日、初詣に行ったばかりじゃない。ははあ、何か隠してるな。おい、息子。お年玉どうした?貯金したのか」
「貰ったばかりのお年玉を、貯金もせずに福袋買っちまうんだぜぇ。ワイルドだろ?」
「なんだ、買い物に行くのか。それだったら言ってくれればいいのに。よし、父ちゃんが車で店まで送っていくぞ。まだ、酒飲んでないからな」
「いいよ。私は遠慮する」
「なんだよ母ちゃん。遠慮するなよ」
「私は京成バスに乗りたいんだよ。今年の初乗りをしたいんだよ」
「でもさ、ばあちゃん。折角だから父ちゃんに車で送ってもらおうよ」
「そうだよ。今日はお正月ダイヤでいつもよりバスの本数が少ないんだからさ」
「そうは言ってもねぇ。お前たちは清と買い物をするのが、どれだけ大変か知らないから、そういう事を言うんだ。大変なんだから。駄々をこねるんだよ、駄々を」
「ちょっと待ってよ母ちゃん。それ何年前の話だよ。俺が子供の頃の話だろ。それに俺は今年45だよ。駄々なんか捏ねる訳ないじゃない」
「本当かね。『ハム・ソーセージが食べたい!』『スーパーカー消しゴム欲しい!』『ビックリマンチョコレート買って!』って大騒ぎしたじゃないか」
「なんだよ。よく覚えているなぁ。『ハム・ソーセージ』はこの前、日本ハムファイターズの投手コーチに就任したジョニー黒木が一杯送ってきてくれたよ。この前みんな食べたろう。だから大丈夫だよ」
「『スーパーカー消しゴム』は」
「今、ベンツ乗ってるじゃない。消しゴムじゃない本物の車。だからスーパーカー消しゴムは必要ないの」
「『ビックリマンチョコレート』は」
「俺はロッテの選手だよ。頼めばいくらでも、もらえるの」
「ねえ、父ちゃんもばあちゃんも何言ってるんだよ。早くしないと船橋東武が開店しちゃうよ」
「そうだよ。福袋が売り切れちゃよ」
「そうか。そりゃ大変だ。ほら、母ちゃん。息子達。早くベンツに乗るんだ」

「ふう。なんとか船橋東武の開店に間に合ったな」
「父ちゃん、ばあちゃん。俺らはスポーツ用具売り場に行くね」
「おう。わかった。で、母ちゃん。なんでCDショップに行くんだい」
「ほら、こないだの紅白歌合戦で美輪明宏が『ヨイトマケの唄』歌ってたろ。あれを見てCD欲しくてね」
「ふーん。そうなんだ。あっCDショップだ」
「すいません。店員さん」
「はい、雇われ店長の江尻です」
「変わった自己紹介ですね。すいません、美輪明宏の『ヨイトマケの唄』のCD下さい」
「すいません。実は皆さん紅白歌合戦をご覧になって、CDをお買い求めになっていまして実は品切れなんですよ。再入荷は2週間後の予定なんです」
「あ、そうなんですか。それは残念ね」
「うわっ、母ちゃん!見てよこれ」
「なんだい清」
「見てよ、これ。すごくない。【新春ワゴンセール・ヘビメタ全品3割引】だって。うわー最高だな新年早々」
「また始まったよ。お前は結局いつもそうじゃないか」
「すごい!キッスだ。懐かしいなぁ。あっ、こっちはブラック・サバス。ヨーロッパのファイナルカウントダウンまである!この曲で内竜也がリリーフカーに乗ってマウンドに登板するんだよ」
「内君は怪我をしているから無理だよ!」
「おっ!これは、俺の大好きな『グランド・ファンク』じゃないか!」
「グランド・ファンクって最低よね」
「何言ってんだよ母ちゃん。グランド・ファンクがロック史に残した功績は…」(ストッパー毒島2巻 P201参照)
「…。あれ、これメガデスじゃない」
「えっ、母ちゃん。メガデス知ってるの」
「知ってるわよ。マーティ・フリードマンが在籍していたんでしょう」
「母ちゃん。どうしたんだよ。メガデスとかマーティ・フリードマンとか」
「母ちゃんね。この前、津田沼のパチンコ屋でマーティ・フリードマンに会ったのよ」
「はい?なんで津田沼のパチンコ屋にマーティ・フリードマンがいるんだよ」
「パチンコ番組のロケで来てたのよ。『ぱちんこCR蒼天の拳』の歌を歌っている本人が打つって企画で。その時にサインをもらったのよ。だから清。このCD買って」
「えー、なんだよ。美輪明宏の『ヨイトマケの唄』のCD買う予算で買えばいいじゃないか」
「そんなこと言わないでよ、ねぇ買って。買っておくれよ」
「そんなに欲しいなら、自分で買ってよ」
「ふーん。そう。清は冷たいねぇ。お前がそういう態度なら、母ちゃんは『初芝清が実母に暴行なう』ってツイッターでつぶやくよ」
「あー!やめてくれ。地奨住建の『初芝くん』のCMがダメになる」
「買ってくれるのかい」
「買うよ。買います。すいませーん店員さん」
「はい。店員の山本です」
「えっ。あの僕はもう引退した身なので、ハードな練習はご勘弁を。『でぶは2倍』とかもう無理です」
「何をおっしゃているんですか。メガデスのCD3000円になります。買っていただけますか」
「はい、お支払いします。ふう。こんな事になるんなら、家で箱根駅伝を見ていればよかった」
「あのー、お取り込み中、申し訳ありませんが」
「はいっ?まだ何か」
「スポーツ用品売り場担当の有藤と申しますが」
「うわ。一番、厳しい人が出てきた」
「あの、初芝さん。落ち着いてください。実は御子息様から『福袋の勘定はCDショップにいるオヤジに』という事でしたので、ご請求書をお持ちいたしました」
「えっ、わざわざすいません。って、お年玉で買うんじゃないのかよ!どれ請求書の中身を見るか。うわっ、何これ『QVCマリンフィールド公式戦での始球式の権利』って、あいつら俺の引退試合で散々シャドーピッチングしてたじゃん!マウンドで。しかも小宮山に注意されてたし。なんだよ、こんなの横山さんにお願いすればどうにかなる話だよ。で、次は『QVCマリンフィールドのVIPルーム(一般販売なし)「Marines Dream Saloon」にてご観戦。さらに試合中はあなたのお側にMr.マリーンズ、初芝清氏がお付き解説者として、片時も離れずにあなたのためだけの解説をしてくれます』っていつもやっているだろう!船橋の自宅で!チバテレビとかTwellV見ながら。もう、訳わかんないよ。最後は『現役マリーンズ戦士・清田育広選手の実家・清田園から梨を一年分』って毎年お取り寄せしてるよ!2年分、20世紀とか幸水が届けられたらどうすんだよ。食べきれないよ」
「あの初芝様。福袋は買っていただけますよね。買っていただけない場合は、お母様とのやりとりをスマホで録画していますので」
「あー、やめて。やめてくれ。買います。お支払いします。はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
「あーもう。新年早々ひどい目にあったなぁ。母ちゃん。もう帰るよ」
「あの、すいません初芝さん」
「うわっ、まだいましたか。船橋東武の店員さん」
「いえ、私は船橋在住のマリーンズファンです」
「あっ、それは失礼しました。随分と、熱心なファンの方で。いつもマリーンズを応援いただきありがとうございます」
「いえ。あの初芝さん」
「はい」
「昨年は本当に悔しい思いをしました」
「そうだねぇ。僕も悔しかったですよ。前半戦、あれだけ貯金があったのに…」
「そうなんですよ。今年こそ勝って勝って勝ちまくって、リーグ優勝を成し遂げたいですよね」
「勝って勝ってねぇ。買いたいのはやまやまだけど、白星だけは買えないんですよ船橋東武では」

posted by 雷庵博人 at 21:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 落語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
好い噺です。馬るこさんの改作古典を思い出すくらいの壊しっ振りが好いです。展開の仕方も好いですね。
サゲも決まるし。

ただ、あまりにマニアック過ぎて、千葉県民でマリーンズファンじゃないと(=しかもグランドファンク論争なども)意味が解らなかったりして(笑)。
ファンによるファンのための噺ですね(爆)。
888888!


そいや『初天神』、天どんさんのそれは飴玉各色をつまんでは指を舐め、つまんでは指を舐め…の後、カラーひよこの屋台でひよこ各色をつまんでは指を舐め…という、爆笑シーンが出てきます。


今年も落語を楽しみたいですね♪

Posted by 中林20系 at 2013年01月05日 10:54
>>中林20系さん
コメント誠にありがとうございます。しかもお褒めのお言葉まで。
ご指摘のとおり、ごく一部のマニアの方にだけ分かっていただければという噺です。ロッテファンでも分かる方は少ないかもしれませんね。

>>馬るこさんの改作古典を思い出すくらいの壊しっ振りが好いです
これは本当に嬉しいですね。馬るこさん、大好きなので。

>>カラーひよこの屋台でひよこ各色をつまんでは指を舐め…という、爆笑シーンが出てきます。
カラーひよこ!やっぱり本職の落語家さんはすごい発想をなされる。


Posted by 雷庵博人 at 2013年01月05日 12:33
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