2012年09月10日

立川談笑独演会(2012年9月9日)

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武蔵小金井駅の目の前にある「小金井市民交流センター」での落語会。

前座なしで三席

<今日の演目>
談笑 「金明竹」
談笑 「イラサリマケー」
ー中入りー
談笑 「芝浜」(「シャブ浜」ではありません)

私は「談志の芝浜」が「芝浜」のひとつの到達点で、基本というか基準になるものだと思っていましたが、談笑師の「芝浜」はまさに「芝浜」の常識、様式をすべてぶっ壊す「芝浜」。

常識を疑えではありませんが、固定観念で落語を聴くのは良くないなーと反省。

細かく書くと談笑師のお仕事に差し障りが出るかもしれません。なので委細は記載しません。

でもちょっとだけ書こう。


魚屋の勝五郎。財布を拾ったのは夢でもなんでもなく現実だってことに最初から気づいていた。でも財布が見つからない。なぜなら、奉行所に拾得物として届けられていたからだ。1年後、持ち主が見つからず、財布は返される。そして財布を見つけたある日、勝五郎42両持って酒屋に行く。冬の寒い日。ああこうやって女房は酒を買いに行っていたのか。たったひとりの家族、それが仕事をサボり酒に逃げる飲んだくれ。さぞかし心細かったに違いない。そして金はどこから工面したのだろう。そう思うと、勝五郎は女房にすまないことをした、申し訳ない。そもそも女房は正直で嘘をつく女じゃない。その女房にうそをつくように仕向けたのはこの俺だ。

と自発的にこれまでの生活を反省し、一生懸命に働くようになる。

女房は女房で勝五郎に嘘をついたことをいつまでも悔いる。その女房に「実は俺。酒をやめていないんだ」って酒を飲む。「俺もお前にうそをついていた。これでおあいこじゃねえか」

この演出は本当にびっくりした。「芝浜はまだ進化する噺なんだ!」で人物描写な筋書きに違和感がない。むしろ、こういう解釈もありだなとさえ思える。まさに「芝浜・改」そして快!

折角だから二人で酒を飲も打って話になる。するとおかみさんが「お腹の中に…。三ヶ月なの」
これもすごい演出だよなぁ。芝浜史上初のご懐妊。おかみさんが酒を飲まない。勝五郎は飲む。これまた芝浜史上初。あと勝五郎の「好きな魚屋でメシが食える。こんな幸せなことはない」ってセリフが良かったね。

談笑さんは本当にすごいことを考える。素晴らしい一席でした。(最初に勝五郎が「俺の仕事はトラック運転手」って言った時は「えっシャブ浜やるの」と驚きましたw)

ちなみに、大晦日に勝五郎の家に来た、借金取りや掛け取りを追い返したのは「市馬さん」っていう名前のすぐに歌いたがる人だそうです。

あと、勝五郎が芝浜でタバコを吸うシーン。勝五郎を魚屋として育ててくれた師匠を思い出し「俺がここまでこれたのも、全部師匠のおかげだよ。感謝してます」とつぶやく。

談志師匠へのオマージュだよなぁ。いい。

ここからは時系列を無視して印象的な話を。

芝のお寺に初代・立川談笑のお墓があるそうです。当代の談笑師が12月にそこのお寺で落語会を開くそうです。無論、演目は芝浜。で、そのお寺に談志師匠のおかみさんと娘さんが来て、住職とお話されたそうです。もしかしたらお墓を買うのかな?

「金明竹」
マクラ。談笑師の近所のインド人のカレー屋さんの話。談笑さんはやたらとインド人に好かれる。カレーをテイクアウトで買うと、インド人の定員が「悲しそうな目」でレジスターを見る。使い方がわからないそうだ。「マニュアルを読めばわかるよ」というと彼らは悲しそうな目をする。マニュアルを見ると日本語で書いてある。彼らは日本語がわからない。マニュアルのお客様サービスセンターの電話番号を指差し「ここに聞いてみたら」というと彼らは悲しそうな目をする。そして彼らは悲しそうな目で談笑師に電話を渡す。なぜか談笑師が店の代表としてお客様サービスセンターとやり取りする羽目に。

談笑師がパチンコ屋に行くと、例のカレー屋の前を通る。するとどこからともなく悲しそうな目をしたインド人が談笑師の周りを取り囲む。談笑師が台に座り打ち始める。するとインド人たちは店の外で悲しそうな目をしながら談笑師を凝視する。その3分後、大当り。

「インド人が祈ってくれたんでしょうね。玉が出るように。悲しそうな目をしながら」

ある日、例のカレー屋の前を通るとインド人たちが悲しそうな目をしている。店のシャッターが開かなくなってしまったそうだ。誰も中には入れない。「シャッターの会社か不動産屋に電話をして、見てもらったら」というと、インド人は悲しそうな目をしながら「そういう書類はすべて店の中にある」と言うのだ。悲しそうな目をしながら。

こういう、日常の何気ないエピソードのマクラっていいな。

「イラサリマケー」
マクラで金明竹の制作秘話。談笑師の仲買の弥市は津軽弁。談笑師のルーツが津軽にあり、地元の人に方言指導をしてもらう。教わった通りに演ると何言っているのかさっぱり分からない。なので十分の一に薄めて演る。「古池やかわず飛び込む水の音」のかわず。津軽弁ではがっこという。かわずとがっこでは母音と子音が違う、そうすると掛詞が成立しない、だから薄めて演ってるとの事。随分、学術的な話。金明竹・津軽弁バージョンは特に東北で大受けしたとか。談志師と東北へ巡業した際、談笑師があまりに受けるので、談志師が舞台袖に来て噺を聞いていたらしい。そして新幹線のエレベーターで談志師から「お前、真打になるか」って聞かれたとか「二つ目になってまだ4ヶ月。どんなイジメだよ」と思ったそうです。

談笑師の金明竹を聞いた、伊奈かっぺい氏「絶対にウケるからやりましょう」と口説かれ青森で落語会を開催することに。メインは勿論、津軽弁の「金明竹」。会場は大爆笑につぐ大爆笑。そすろある観客がこう叫んだ「おめー、何言ってるかさっぱりわかんねーよ」

「そりゃそうだよな。やってるこっちだって分からないもの」(談笑師)

あと定番の「談春と談笑がよく間違えられる」「談春と談笑を同一人物だと思っている人がいる」

談笑師が「大沢悠里のゆうゆうワイド」にゲスト出演。するとネット上で「談春と談笑のどっちがゲストなんだ」と騒ぎになり、談春師がTBSラジオに「俺、明日出るの?」と問い合わせの電話があったそうです。そしてひとしきりトークが盛り上がりメールを読む「談笑さんおはようございます。ところで最近、競艇は勝っていますか?」

そういえば「イラサリマケー」には、悲しそうな目をした泣き震えながら「ビルマだよ」「ビルマだよ」って主張するミャンマー人が登場するよね。(あの人たちってミャンマー政府に迫害されて、日本に来た人なのかな)

「今日のオスメス、エロエロあるよ」
「ネコミに、イマダメ、ユビクライ、テサバキ、チンコナメアゲ、オメコナメオロシ、イカナイトシロートタイカイ」

「イカナイトシロウトタイカイ」って強烈なインパクトだよね。

悲しく死んだ動物のお腹を切り開いて、ずるずろ臓物を引きずり出し、ぶつぶつ切り刻み、串に刺して火あぶりにする

確かにこれは食べたくなくなるw
posted by 雷庵博人 at 09:24| Comment(6) | TrackBack(0) | 落語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この『芝浜』は凄すぎますね。換骨奪胎どころじゃないですね。再構成どころじゃないですね。
雷庵さんの解説だけで背筋がゾクゾクしました。本筋にいろいろと手を加えて個性を出す場合は多々ありますが(=大抵はそんなに面白くなってない)、設定のみ借りて新たなる、しかも面白い噺を創り出すとは!

※百栄師匠が円丈師匠の『いたちの留吉』をカヴァーされた噺は、設定のみを戴いてまったく新しい、そして百栄師匠らしい爆笑噺に仕立ててましたが


確か10年前くらいの、二つ目のまま襲名された頃だったかと思いますが、当時よく通ってた円丈師匠の新作根多下ろしの会に談笑さんが出られて、江戸時代を舞台とした新作を演られましたが、コレがすごかったんです。
路上生活者(←とは言ってなくて、現在では差別用語に当たる言葉でしたが)の婆さんに身なりの好い若旦那が近付いて、無くなった母にそっくりだと。
で、生前は親孝行も出来なかったから代わりにアナタに孝行したいということで、その婆さんに良い身なりをさせて…という噺。

これ、古典じゃないですよね。わたしは知らない噺でしたが。
もしかして古典にテンプレがありますか?
これがラストにはグルリと引っくり返るような噺でした。

このひとはある意味でバリバリの新作派でもありますよね。


長々と失礼しました。興奮を抑え切れなかったもので♪


Posted by 中林20系 at 2012年09月10日 20:07
>>中林20系さん
コメントありがとうございます。

談笑師の改作。本当にびっくりしました。そして噺に聴きごたえがあり、一気にもっていかれました。いや、いい経験をしました。

>>もしかして古典にテンプレがありますか?
なんでしょうね。ちょっと見当がつきません。

>>長々と失礼しました。興奮を抑え切れなかったもので♪
いえいえ、こちらこそ。喜んでいただいたようで、嬉しく思います。
Posted by 雷庵博人 at 2012年09月11日 05:27
新作の方は「命のカネ」です。滅多に演りません。
旧い小話集で見つけたものを広げました。
味付けとして、講釈『河内山宗俊』の逸話から借用した
着想も盛り込んでいます。

評判をありがとうございます。
Posted by 立川談笑 at 2012年11月21日 22:56
>>立川談笑師匠
ご本人様よりコメントを頂き、非常に恐縮しております。
また、ご教授下さり本当に感謝しております。
何とかして、師匠の独演会のチケットを入手しこれからも高座を拝見させていただきたいと思います。

これからのご活躍、心よりお祈り申し上げます。
Posted by 雷庵博人 at 2012年11月21日 23:22
うわぁ!こりゃびっくり!
なるほど『命のカネ』でしたか。
師匠にも雷庵さんにも感謝です。
Posted by 中林20系 at 2012年11月22日 07:34
>>中林20系さん
いや、本当に驚きましたよ。
衝立に書いた雀の絵が、飛び出して目の前で飛んでいるのを見た時と同じぐらいびっくりしました。

>>命のカネ
不勉強なもので、こういった新作落語を今まで知りませんでした。
ご教授頂きた立川談笑師匠に感謝。
きっかけを作って下さった中林20系さんにも感謝。
Posted by 雷庵博人 at 2012年11月22日 20:18
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